脳卒中後の「失語症」とは?もどかしさを軽減するコミュニケーションのコツ
脳卒中(脳梗塞や脳出血)の後遺症として、手足の麻痺と同じくらい患者様やご家族の生活に大きな影響を与えるのが「言葉」の障害です。昨日まで普通に会話をしていた家族が、突然言葉を発せなくなったり、全く違う言葉を口にしたりする姿に、大きなショックを受ける方は少なくありません。
これは「失語症(しつごしょう)」と呼ばれる脳の言語機能の障害です。今回は、リハビリテーション専門医の視点から、失語症の正しい理解と、ご家庭でできるコミュニケーションの工夫について解説します。
■ 失語症に関する「最大の誤解」
まず、失語症について最も重要で、かつ誤解されやすい事実をお伝えします。それは「失語症は、認知症や知能の低下ではない」ということです。
失語症とは、脳の言語中枢がダメージを受けたことにより、「言葉を操る機能」だけが一時的または持続的にうまく働かなくなっている状態です。ご本人の頭の中には、これまでと変わらない知性も、「伝えたい思い」も、過去の記憶もしっかりと存在しています。
ただ、それを言葉という形に変換する「出口」や、相手の言葉を意味として受け取る「入口」が塞がってしまっているのです。よく「突然、言葉が全く通じない外国の街に、たった一人で取り残されたような状態」と表現されます。
■ 失語症の主な症状(話すことだけではありません)
失語症の症状は、言葉がうまく出ないことだけだと思われがちですが、実際には言語を構成する「聞く(理解する)」「話す」「読む」「書く」という4つの機能すべてに影響が及びます。損傷を受けた脳の場所によって、主に以下の2つのタイプに分かれます。
- 運動性失語(ブローカ失語): 相手の言っていることはある程度理解できるのに、自分が言いたい言葉がうまく口から出てきません。「あー」などの声しか出なかったり、たどたどしくなったりします。
- 感覚性失語(ウェルニッケ失語): 言葉はスラスラと流暢に出てきますが、言い間違いが多く、意味の通らない文になります(錯語)。また、相手の言っている言葉の意味を理解するのが難しくなります。
■ ご本人の計り知れないもどかしさと苦悩
「頭ではわかっているのに、言葉が出ない」「違う言葉が出てしまう」。このもどかしさは、ご本人にとって計り知れないストレスとなります。うまく伝わらない苛立ちから、怒りっぽくなったり、逆に会話を避けて引きこもりがちになったりするケースも少なくありません。
この時、周囲が焦って何度も聞き直したり、逆に「もういいよ」と会話を打ち切ったりすることは、ご本人の自尊心を深く傷つけてしまいます。決して子ども扱いせず、一人の大人として尊重して接することが何よりも大切です。
■ ご家族ができる「コミュニケーションの工夫」
ご家庭でコミュニケーションを取る際は、以下の4つのポイントを心がけてみてください。
- ① ゆっくり、短く、はっきり話す: 早口や長文は理解が追いつきません。「今日は、お昼に、うどんを食べますか?」と区切りながら、短い文章で伝えます。
- ② 「はい/いいえ」で答えられる質問を: 「何が食べたい?」という開かれた質問ではなく、「うどんが食べたい?」という頷き(ジェスチャー)で答えられる質問(クローズド・クエスチョン)にします。
- ③ 言葉以外の手段(非言語的コミュニケーション)をフル活用する: 身振り手振り、実物を指差す、絵カードや写真を見せるなど、視覚的な情報を組み合わせることで、伝わりやすさが劇的に向上します。
- ④ とにかく「待つ」: 言葉が出てくるまでに時間がかかります。先回りして答えを言いたくなりますが、ご本人が言葉を探している間は、ゆったりとした気持ちで数秒待ってあげてください。
■ まとめ:焦らず、新しい「会話のカタチ」を見つける
失語症の回復には長い時間がかかりますが、言語聴覚士(ST)による専門的なリハビリと、ご家族の温かいサポートによって、少しずつコミュニケーションの糸口は見つかっていきます。最近では、タブレットやスマートフォンを使ったコミュニケーション支援アプリなども手軽に利用できるようになりました。
失語症は「言葉を失う病気」ではなく、「新しいコミュニケーションの形を見つけるための試練」です。焦らずゆっくりと、ご家族ならではの新しい会話のペースを見つけていきましょう。
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