脳卒中後の自主トレで注意すべき「代償動作(間違ったフォーム)」とは?
脳卒中(脳梗塞や脳出血)を発症した後のリハビリテーションにおいて、退院後のご自宅での「自主トレ」は機能回復のために非常に重要です。病院でのリハビリ時間が限られている中、ご自宅でどれだけ体を動かせるかが、その後の生活の質(QOL)を大きく左右します。
しかし、ご自宅で一人でリハビリを行う際、非常に多くの方が陥りやすい「落とし穴」があります。それが今回解説する「代償動作(だいしょうどうさ)」です。一生懸命リハビリをしているのに、なかなか良くならない、あるいは別の場所が痛くなってしまうという方は、この代償動作が原因かもしれません。
■ 代償動作(だいしょうどうさ)とは何か?
代償動作とは、本来動かしたい筋肉や関節(麻痺している部分)がうまく働かない時に、無意識のうちに「健康な別の筋肉や関節」を使ってその動きを補おうとする動作のことです。
例えば、麻痺のある腕を上に挙げようとした時、腕の筋肉だけでは持ち上がらないため、無意識に「肩をすくめて」腕全体を持ち上げようとしたり、体を反対側に大きく傾けたりした経験はないでしょうか。あるいは、歩く時に麻痺した足が地面に引っかからないよう、腰を大きく振り回すようにして歩く(ぶん回し歩行)なども代表的な代償動作です。
人間の脳は非常に賢いため、「目的(腕を挙げる、歩く)」を達成するために、使える部分を総動員してなんとかしようとします。日常生活を送る上ではある程度必要なことではありますが、「リハビリ(機能回復)」という観点においては、大きな妨げになってしまうのです。
■ なぜ代償動作のままリハビリを続けてはいけないのか?
代償動作を伴ったまま間違ったフォームで反復練習を続けることには、主に2つの大きなリスクがあります。
- 1. 本来回復すべき機能が改善しない(学習性不使用)
代償動作を続けると、脳は「健康な筋肉を使えば動ける」と学習してしまいます。その結果、本来動かして回復させたいはずの麻痺側の筋肉が使われなくなり、神経回路の再構築(脳の可塑性)が促されません。これを専門用語で「学習性不使用」と呼びます。 - 2. 別の関節や筋肉を痛めてしまう
不自然な姿勢で無理な動きを繰り返すため、本来負担がかからないはずの肩や腰、膝などに過度なストレスがかかります。これが原因で「肩関節周囲炎」や「腰痛」などを引き起こし、痛みのためにリハビリ自体ができなくなってしまうという悪循環に陥る危険性があります。
■ ご自宅で代償動作を防ぐための3つのポイント
では、専門家の目が届かないご自宅で、どのようにして代償動作を防ぎながら正しい自主トレを行えばよいのでしょうか。
- ① 鏡(姿見)を見ながら行う
最も手軽で効果的な方法は、全身が映る鏡の前で運動することです。自分の肩がすくんでいないか、体が傾いていないか、左右対称に動かせているかを視覚的に確認しながら行いましょう。 - ② 回数よりも「質」を重視する
「毎日100回腕を挙げる」といった回数の目標を立てると、疲れてきても無理やりこなそうとして代償動作が出やすくなります。「正しいフォームでできる範囲で、10回を丁寧に行う」など、量よりも質(フォーム)を意識することが重要です。 - ③ 頑張りすぎない(負荷を落とす)
代償動作は、「今の自分の能力以上の動き」をしようとした時に現れます。腕が上がらないなら、無理に高く上げようとせず、痛みや違和感なく動かせる範囲(可動域)で動かすことから始めましょう。寝た状態や座った状態など、姿勢を安定させて行うのも効果的です。
■ まとめ:正しいフォームの継続が回復への近道
リハビリは「ただ動かせば良い」というものではありません。特にご自宅での自主トレでは、焦らず、自分の体と対話しながら「正しい動き」を脳に覚え込ませていく作業が必要です。
もし、「自分のフォームが正しいかわからない」と不安に感じた時は、次回の診察時や訪問リハビリの際に、担当の医師や理学療法士・作業療法士に普段の動きを見てもらいましょう。正しいフォームでの地道な継続こそが、回復への一番の近道となります。
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