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【専門医が解説】リハビリの目標を劇的に変える「ICF(国際生活機能分類)」とは?

「リハビリテーションとは、麻痺した手足や弱った筋肉を鍛えて、元の状態に戻すことだ」——そう思われている方は非常に多いのではないでしょうか。

もちろん、身体機能を回復させることはリハビリの重要な柱の一つです。しかし、現代の医療・福祉の現場では、それだけを目標にすることはありません。私たちが患者様のリハビリプログラムを考える時、常に頭の中にある世界共通の「ある羅針盤」が存在します。それが今回解説する「ICF(国際生活機能分類)」です。

■ ICF(国際生活機能分類)とは何か?

ICFとは「International Classification of Functioning, Disability and Health」の略称で、2001年に世界保健機関(WHO)によって採択された、人間の「生活機能」と「障害」に関する世界共通の分類法です。

かつての医療は、「病気やケガがあるから、何もできない(マイナス面)」という見方が主流でした。しかしICFは、「その人がどんな環境で、どんな強みを持っていて、どうすれば生活できるようになるか(プラス面)」という、人間の生き方全体を包括的に捉えようとする画期的な考え方です。病気ではなく、その人の「生活そのもの」に焦点を当てるのが最大の特徴です。

■ ICFを構成する「6つの要素」

ICFでは、人間の生活状態を以下の6つの要素に分け、それらが互いに影響し合っていると考えます。

  • ① 健康状態: 脳卒中、骨折、糖尿病、認知症など、その人の抱えている病気やケガのことです。
  • ② 心身機能・身体構造: 手足の麻痺、筋力の低下、視力や聴力、記憶力など、身体と心の働きそのものを指します。
  • ③ 活動: 歩く、着替える、料理をする、文字を書くなど、個人が生活の中で行う具体的な「動作」のことです。
  • ④ 参加: 職場に復帰する、地域の趣味の集まりに行く、家族の役割(例えば孫の世話)を果たすなど、社会や家庭への関わりのことです。
  • ⑤ 環境因子: 階段の手すり、車椅子、段差のない家といった「物的な環境」だけでなく、家族のサポートや医療制度など「人的・社会的な環境」も含みます。
  • ⑥ 個人因子: 年齢、性別、性格、職業、価値観、「こんな人生を送りたい」というその人自身のバックグラウンドのことです。

■ なぜリハビリでICFが重要なのか?(具体例)

例えば、「脳卒中で右足に麻痺が残った(②心身機能の低下)」という患者様がいたとします。

もしICFの視点がなければ、リハビリの目標は「右足を治すこと」だけで終わってしまいます。しかし、麻痺が完全には治らない場合、患者様は絶望してしまうかもしれません。

ここでICFの視点を使います。患者様の本当の願い(⑥個人因子)が「また家族のために料理を作りたい」だったとします。足が完全に動かなくても、台所に「椅子」を置き、使いやすい「調理器具」を用意すれば(⑤環境因子の調整)、座ったままでも「料理をする(③活動)」ことができ、家族に喜んでもらう「母親としての役割(④参加)」を果たすことができます。

つまり、身体の機能が100%元通りにならなくても、環境や周囲のサポートを変えることで、「その人らしい生活」は確実に取り戻せるのです。

■ まとめ:リハビリは「あなたの人生」を再構築する作業

ICFが教えてくれるのは、障害や病気は決してその人のすべてではないということです。私たちリハビリテーション専門医や療法士は、このICFという羅針盤を使い、患者様の「できないこと」ではなく「できること」や「環境の強み」を探し出し、組み合わせていきます。

リハビリとは、単なる機能訓練ではありません。あなたが再び、あなたらしい人生の主役として社会に「参加」するための、希望の再構築なのです。もし今、リハビリで行き詰まりを感じているなら、ぜひ主治医や療法士に「私はこういう生活(参加)がしたい」という想いを伝えてみてください。そこから、新しいリハビリの形が必ず見えてきます。


リハビリテーション科 専門医・指導医 / 医学博士。
25年の臨床経験と、東大大学院の講座で習得した最新AI技術を掛け合わせ、自宅での自主訓練を支援するアプリ開発に取り組んでいます。
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