ブログ・コラム

【専門医が解説】リハビリの効果は「量」で決まる?回復を最大化するための正しい考え方

「先生、どのくらいリハビリをすれば良くなりますか?」「毎日何時間運動すればいいのでしょうか?」――外来診察や入院中の患者様から、このようなご質問をよくいただきます。

結論から申し上げますと、リハビリテーションによる機能回復の効果は、圧倒的に「量(練習量・活動量)」に依存しています。お薬に「適切な投与量」があるように、リハビリという治療においても「適切な運動量」の確保が不可欠なのです。今回は、なぜリハビリにおいて「量」がそれほど重要なのか、そしてご自宅で無理なく運動量を増やすためのコツを解説します。

■ なぜ「量」が重要なのか?〜脳の可塑性(かそせい)と学習〜

脳卒中などによって一度ダメージを受けた脳の神経細胞は、元通りに再生することはありません。しかし、人間の脳には、生き残った別の神経細胞が新しいネットワーク(回路)を作り出し、失われた機能を補おうとする素晴らしい能力が備わっています。これを医学用語で「脳の可塑性(かそせい)」と呼びます。

この新しい神経回路を開通させるために絶対に必要な条件が、「正しい動作の反復(繰り返し)」です。子供が自転車の乗り方を覚えるとき、何度も転びながら練習を繰り返したように、脳が新しい身体の動かし方を再学習するためには、圧倒的な回数の「反復練習」という「量」が必要なのです。国内外の多くのリハビリテーション・ガイドラインでも、「訓練量は多ければ多いほど、機能回復に有効である」と科学的に明記されています。

■ 病院でのリハビリ時間だけでは圧倒的に足りない現実

ここで大きな壁となるのが、医療制度における時間制限です。現在、病院で理学療法士や作業療法士からマンツーマンで受けられるリハビリの時間は、最大でも1日3時間(180分)と定められています。退院してご自宅に戻り、訪問リハビリやデイケアを利用する場合、その時間はさらに短くなり、週に数時間程度になるのが一般的です。

1週間は168時間あります。もし週に2回、1時間ずつのリハビリしかしていない場合、残りの166時間をベッドやソファで動かずに過ごしてしまっては、十分な「量」を確保できず、脳の再学習は進みません。つまり、専門家によるリハビリ以外の「ご自宅での時間(自主訓練や日常生活)」をいかに活動的に過ごすかが、回復の鍵を大きく握るのです。

■ ご自宅で無理なく「量」を確保する3つのコツ

では、ご自宅で効率よくリハビリの量を増やすにはどうすればよいでしょうか。

  • ① 日常生活(ADL)そのものをリハビリにする
    「さあ、今からリハビリをするぞ」と意気込む必要はありません。例えば、「ご家族に取ってもらっていたお茶を自分で注ぐ」「車椅子ではなく、手すりを使ってトイレまで歩く」「着替えを少しだけ自分でやってみる」など、日々の生活動作の中に麻痺した手足を使う機会を組み込むことが、結果的に最高の練習量(使用頻度の増加)になります。
  • ② 「チリツモ効果」を狙う(分割して行う)
    1回で1時間まとめて運動しようとすると、疲労で代償動作(間違ったフォーム)が出やすくなります。「テレビのCMの間に5回だけ立ち座りをする」「歯磨きをしながらかかと上げをする」など、5分の運動を1日に何回もこまめに行うほうが、体への負担が少なく、総量として多くの運動量を安全に確保できます。
  • ③ 疲労と痛みのサインを見逃さない
    「量」が重要とはいえ、痛みや極度の疲労を我慢してやりすぎるのは逆効果(過用症候群)です。翌日に疲れが激しく残らない、関節に強い痛みが出ない範囲で、ご自身の体調に合わせて「量」をコントロールすることが大切です。

■ まとめ:小さな積み重ねが未来の自由を変える

リハビリテーションにおける「量」とは、決してスポーツ選手のような激しいトレーニングを指すわけではありません。日々の生活の中で、ご自身の身体と対話しながら、少しずつ「動く時間」や「使う回数」を増やしていくことです。

昨日より今日、今日より明日。ほんのわずかな活動量の増加が、数ヶ月後、数年後のあなたの生活の質(QOL)を大きく変える力を持っています。焦らず、地道な「量」の積み重ねを一緒に続けていきましょう。


リハビリテーション科 専門医・指導医 / 医学博士。
25年の臨床経験と、東大大学院の講座で習得した最新AI技術を掛け合わせ、自宅での自主訓練を支援するアプリ開発に取り組んでいます。
> 詳しいプロフィールと経歴を見る