脳卒中後のリハビリで知っておきたい「痙縮(けいしゅく)」への対処法と注意点
脳卒中(脳梗塞や脳出血)を発症し、病院でのリハビリを経てご自宅での生活が始まると、ご自身の体の変化に戸惑うことがあるかもしれません。中でも、非常に多くの方が経験されるのが「手足が勝手に突っ張る」「指がギュッと曲がって開きにくい」といった症状です。
これは「痙縮(けいしゅく)」と呼ばれる、脳卒中の後遺症の一つです。今回は、リハビリ専門医の視点から、この痙縮がなぜ起こるのか、そしてご自宅でできる正しい対処法と注意点について詳しく解説します。
■ そもそも「痙縮(けいしゅく)」とは何か?
私たちの筋肉は通常、脳からの指令によって「縮む」「緩む」というバランスを絶妙に保っています。しかし、脳卒中によって脳の神経細胞がダメージを受けると、この「緩む(リラックスする)」ための指令が手足にうまく伝わらなくなってしまいます。
その結果、筋肉が常に緊張してしまい、過剰に収縮した状態が続いてしまうのです。具体的には、以下のような症状として現れます。
- 肘が曲がったまま、伸ばしにくくなる
- 手の指がギュッと握りこぶしのようになり、手を開きにくい
- 歩くときに足の先が下に向いて突っ張り、足の裏が地面にしっかりつかない(内反尖足)
■ 痙縮を放置してはいけない理由
痙縮をそのまま放置してしまうと、リハビリにおいて大きな妨げとなります。
まず第一に、筋肉が突っ張っているため、正しいフォームで関節を動かすことが難しくなり、前回お話しした「代償動作(間違ったフォーム)」を引き起こす原因になります。さらに恐ろしいのは、痙縮が長く続くと、筋肉や腱自体が短く硬くなり、関節が完全に固まってしまう「拘縮(こうしゅく)」という状態に進行してしまうことです。
一度拘縮が起きてしまうと、痛みを伴うだけでなく、着替えや入浴といった日常生活動作(ADL)に大きな支障をきたしてしまいます。だからこそ、早い段階からのケアが重要なのです。
■ ご自宅でできる痙縮の予防と3つのケア
ご自宅で痙縮を悪化させないための注意点と対処法をご紹介します。
- ① 力任せに引っ張らない(優しいストレッチ)
筋肉には、急激に引っ張られると反射的に「さらに強く縮もうとする」性質があります。そのため、突っ張っている手足を無理に力任せに伸ばすのは絶対にやめてください。「痛気持ちいい」と感じる範囲で、息を吐きながらゆっくりと時間をかけて(20〜30秒ほど)関節を伸ばす優しいストレッチを心がけましょう。 - ② 体(手足)を冷やさない
寒さや冷えは、筋肉の緊張を高め、痙縮を悪化させる大きな要因です。冬場の寒さはもちろん、夏場のエアコンの冷えにも注意が必要です。入浴でしっかりと体を温めたり、保温性の高いサポーターを活用するなどして、患部の血流を良く保つ工夫をしてください。 - ③ 正しい姿勢(ポジショニング)を保つ
ベッドで寝ている時や車椅子・ソファに座っている時の姿勢が悪いと、特定の筋肉に力が入り続け、痙縮を助長します。クッションや丸めたタオルを隙間に挟み、麻痺した手足が自然でリラックスできる位置(良肢位)を保つようにしましょう。
■ 医療機関で受けられる痙縮の治療
痙縮は決して「我慢して付き合っていかなければならないもの」ではありません。ご自宅での日々のケアに加え、現在は医療機関で痙縮を和らげるための様々な治療法が確立されています。
代表的なものとして、緊張している筋肉に直接注射をして筋肉を柔らかくする「ボツリヌス療法(ボトックス/ゼオマイン注射)」や、筋肉の緊張を和らげる飲み薬(内服薬)、正しい姿勢を保つための適切な「装具」の作成などがあります。
■ まとめ:一人で悩まず、専門家に相談を
痙縮は脳卒中後の多くの方に現れる自然な反応ですが、適切なケアと治療の組み合わせによって、その症状をコントロールし、生活の質を向上させることが十分に可能です。
「最近、手足がこわばって動かしにくいな」と感じたら、決して一人で悩んだり、無理に引っ張ったりせず、まずは主治医や担当の理学療法士・作業療法士にご相談ください。あなたの状態に合わせた最適な対処法を一緒に見つけていきましょう。
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