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【専門医が解説】リハビリの「ブラックボックス」を解消する。標準コード化がもたらす「見える化」の力

「病院で毎日リハビリを受けているけれど、具体的にどんなメニューを、どれくらいの量こなしているのかよくわからない」——患者様やご家族から、このような不安の声を耳にすることがあります。

実は、リハビリテーションの内容が「見えにくい」のは、患者様にとってだけではありません。我々医療従事者にとっても、リハビリの記録方法は長年の大きな課題でした。今回は、リハビリテーション科医としての25年の経験から、リハビリ内容の「標準コード化」という新しい取り組みが、いかに患者様の回復(見える化)に貢献するかを解説します。

■ なぜ、これまでのリハビリは「ブラックボックス」だったのか?

従来の医療現場において、リハビリの記録(カルテ)は療法士の「自由記述」で書かれることが一般的でした。例えば、「今日は歩行訓練を頑張りました」「腕のストレッチをして、少し動きが良くなりました」といった文章です。

この記録方法は、その日の様子を伝えるのには適していますが、大きな弱点があります。それは「客観的なデータとして蓄積・比較できない」ということです。「歩行訓練」と言っても、平行棒を使ったのか、杖を使ったのか、何メートル歩いたのかは療法士の頭の中にしかありません。主観的な文章表現のままでは、他の医師や、退院後の訪問リハビリのスタッフに正確なバトンを渡すことが難しく、治療のプロセスが「ブラックボックス化」してしまうのです。

■ 「標準コード化」とは、リハビリの共通言語を作ること

このブラックボックスを打ち破る鍵となるのが、リハビリ内容の「標準コード化」です。これは、無数にあるリハビリの動作や訓練内容一つひとつに、世界(あるいは全国)共通の「背番号(コード)」を割り振る取り組みです。

例えば、「椅子からの立ち上がり訓練」=【コードA-01】、「麻痺側の肩の関節可動域訓練」=【コードB-05】といった具合です。文章ではなく、この「コード」と「実施回数・時間」の組み合わせで記録をつけることで、リハビリという曖昧だった治療行為が、明確な「データ」へと変換されます。

これは例えるなら、料理のレシピを「適量」ではなく「大さじ1杯(15ml)」と世界共通の単位で数値化するのと同じです。誰が見ても、どんなメニューがどれだけ提供されたかが一目でわかる「共通言語」が生まれるのです。

■ 標準コード化による「見える化」がもたらす3つのメリット

リハビリがデータとしてコード化され、「見える化」されると、以下のような劇的な変化が起こります。

  • ① 自分の「治療レシピ」が客観的にわかる
    患者様ご自身が、「今週は【コードA】の筋力訓練を50回、【コードB】のバランス訓練を30回やった」と、ご自身の頑張りを具体的な数値として振り返ることができます。成果が可視化されることで、モチベーションの維持・向上に直結します。
  • ② 医療・介護のシームレスな連携(情報共有)
    急性期病院から回復期リハビリ病院、そしてご自宅(訪問リハビリ)へと環境が変わっても、標準コードという共通言語があれば、次の担当者が「これまでどのようなリハビリが行われてきたか」を100%正確に引き継ぐことができます。無駄な重複や、方針のブレを防ぐことができます。
  • ③ AIとビッグデータによる「未来の予測」
    これが最大のメリットです。全国の患者様のリハビリ内容が標準コードとして蓄積されれば、「〇〇の症状の患者様が、コードAの訓練を1ヶ月続けると、歩行能力がこれくらい改善する確率が高い」といったビッグデータ解析が可能になります。AIを活用することで、経験則ではなく科学的根拠(エビデンス)に基づいた、最適なリハビリプログラムを提案できるようになるのです。

■ まとめ:データが拓く、新しいリハビリの未来

リハビリテーションを標準コード化することは、決して人間味をなくして機械的にすることではありません。むしろ、曖昧だった部分を正確なデータとして「見える化」することで、我々医療者はより一層、患者様お一人おひとりの心と身体に寄り添った、質の高いサポートに時間を注ぐことができるようになります。

テクノロジーとデータの力で、誰もが迷わずに回復への最短ルートを歩める未来。そんな新しいリハビリテーションの形が、今まさに始まろうとしています。


リハビリテーション科 専門医・指導医 / 医学博士。
25年の臨床経験と、東大大学院の講座で習得した最新AI技術を掛け合わせ、自宅での自主訓練を支援するアプリ開発に取り組んでいます。
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